INSIGHT

2018.04.20 Fri

“捨てない”選択と「リメイク」の技。世代を繋ぐものづくり── 田中民芸

愛情をかけて使い続けてきた革製品も、時が経てばその役割に終止符を打つ...というのは間違いだ。半ば諦めかけたその “大好きだったけど着ない” 革のジャケットは「鞄」に、Googleカレンダーによって引き出しの奥に追いやられたシステム手帳は「財布」へと “第2の人生” が与えられる。持ち主の愛情に “捨てない” 発想で応える、田中民芸のものづくりとは。

TEXT BY Takahiro Ushida

田中民芸のものづくり

窓側に配置された作業場で淡々と作業を進める田中さん。相談を受けた小柄なオーダーはここで丁寧にリメイクされ、再び持ち主の元へ帰っていく。PHOTO BY T.Ushida

どうすれば生かせるか。

地下鉄を降りて直接繋がるアクロス福岡地下2階。窓側の作業場での仕事を見かけるといつもつい見入ってしまう。ここ田中民芸では、一度役割を終えた革製品に、次の世代での新しい人生を与える技がある。

「最近、おばあちゃんの形見のバッグを持ってきたお客様がいらっしゃったんですけど、形は古いけど革はすごく良いもので。トカゲの革で、当時は何十万もする凄く高価なものだったんですよ。でも、娘さんの年齢じゃ使おうにも使えないからって悩まれてて。話を進めていくうちに、それなら孫にあたる子ども達に何かキーホルダーとか、おばあちゃんの事を忘れないように持ってて欲しいという話になって。男の子には“涙型”、女の子には“ハート型”のキーホルダーを7個作りました。結果的に孫の世代みんなにおばあちゃんの形見を手渡せたって、すごく喜んでもらえて」

── 革は歴史を背負えるという。再利用すればずっと使ってもらえますね。

「そういうのってみんな、“やりたいけどどうしていいか分からない” っていう方がほとんどで。押入れの奥で眠ったままいつの間にかカビが生えてたりとか。そうなる前に一度持って来てもらえれば、他の使い方がないか一緒に考えられますし、予算もその都度相談できるから。
お客様から相談を受けたものは、作業も含めて全て私たちがやってるので、イメージ通りのものに仕上げられるっていうのは大きいと思います。
私がお客様から要望を聞いて、主人にそれを伝えてっていうのがうちのやり方で。主人の腕はもちろん一番に信頼してるんですけど、私も出来上がるまで気が気じゃなかったりして(笑)」

Brother製の工業用ミシンTA2-B623
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窓側に置かれたBrother製の工業用ミシン、TA2-B623。PHOTO BY TAKAHIRO USHIDA
田中さん愛用の木槌
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田中さん愛用の木槌。店の前を通ると、トントントントンと潔い音とともに、作業中の様子を見ることができる。PHOTO BY TAKAHIRO USHIDA
本革製のセカンドバッグ
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店内に入って左側に並べられた本革製のセカンドバッグ。商品は全てご主人が、田中民芸薬院本店の工房で手作りしている。PHOTO BY TAKAHIRO USHIDA
イラスト
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知人のイラストレーターが田中さんのために描いた絵。筆者も好きな作業場でのシーンが切り取られている。PHOTO BY TAKAHIRO USHIDA
文庫本サイズのブックカバー
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文庫本サイズのブックカバー。厚みのある本も収まるように丁度良いゆとりを持った造り。PHOTO BY TAKAHIRO USHIDA

── 革を自由に扱える職人さんだから出せるアイデアってあると思います。一緒になって考えてくれるっていうのも心強い。

「お客様の思い出話とかを面と向かって聞くと、私が『やりたい』って気持ちになってしまって。
この間もランドセルを持って来た女の子がいたんですけど、お父さんの仕事の関係で海外に行くことになって、自分が使ってたランドセルを何かにできないかって。それで2人で話し合った結果、中学校でも使える筆箱とパスケース、それと長財布を作ることになったんですよ。元々の傷もありますけどいいですか?って訊いたら、『それがいいんです』って。本当に理解してくれる子で」

──ランドセル1つでそんなに。普通は長財布になる想像はできないです。

「素材が合皮だったらダメなんですけど、ちゃんとした革だったので。きれいに剥いだらそれだけのものが作れちゃったっていう。
そうやって形を変えれば使えるっていうのをみんなに知って欲しいかな。もともと大事に使ってたものが、埃をかぶって忘れられていくっていうのは勿体ないから。
そういう例だとご年配の男性の、着なくなった革のコートをトートバックに作り変えたこともあります。今は重厚なつくりの革のコートを着る人はそんなにいなくなったんですけど、でもそういうのって当時すごく高いお金を払って買ったものなんですよ。革も凄くいいものだから捨てるに捨てられない、売りに出しても思った値段はつけてもらえないから。それだったらできる限り大きく革を使おうという話になって。トートバックになりました。
革のスカートなんかもそうなんですけど、使い込まれてて柔らかいし、大きいからリメイクし易いんですよね。裏地を剥ぐと薄く軽いものにできたりするので、意外と良いものに作り直せるんですよね。革製品って、新しいものだとなんか落ち着かないとかってあるじゃないですか。だけどそういう使い込まれた物はシワなんかもいい具合に出てて、最初から使い込まれた状態で使えますよね。
だから、大切にしてきた物は『もう使えない』なんて思わないで、気軽に相談に来て欲しいです」──

 

話をしてくれた田中さんは小学生の子供をもつママ。薬院本店では制作専用の工房を構え、ご主人が店頭に立っている。遠くは北海道からの相談も受け、依頼主の愛情のこもった革製品を預かる。アクロス店ではオリジナルの革製品をメインに、南米やアフリカでしか手に入らない天然石を使ったアクセサリーの他、毛糸アーティストによる可愛い人形も並ぶ。

※商品・リメイク事例は田中民芸ホームページまたはfacebookにてご覧いただけます。